Ancient Roman House Interior

メイキング・オブ "Ancient Roman House Interior"(古代ローマのインテリア)

古代ローマの住居内装の 3D ビジュアライゼーション 

  1. 目的
  2. モデリング
  3. テクスチャ
  4. 照明
  5. カメラと構図
  6. 最初のレンダリング
  7. 最終レンダリング

1. 目的
古代ローマ時代、中流・上流階級の人々は天窓のある住居に暮らしていました。晴れた日には天窓が厚手の赤い布(カーテン)で覆われ、屋内に赤い光が降り注ぎました。 部屋の窓に、布や薄手の石材や木材に代わってガラスが使われるようになると、そこからは青い光が入ってくるようになりました。 このちょっと不思議な空間を 3D で復元して、当時の室内の空気感を再現してみよう、というのが、今回の狙いです。

2. モデリング
私たちは、古代ローマの典型的な寝室の内装を再現するために、12 個の 3D パーツセットを用意しました。 そのなかから実際に使ったのは、クビクルム(ローマ式の寝室)、ベッド、スツール、小テーブル、オイルランプ、陶器の油差し(オイルランプに油を補充するためのもの)、ノーラ型アンフォラ(液体運搬容器、室内に配置しましたが、最終レンダリングでは見えていません)の 7 つです。

これらを Vue で配置して、壁のフレスコ画以外をレンダリングしたのが、下の図です。

3D パーツのモデリングとマッピングは、すべて CINEMA 4D で行っています。

出来上がったパーツを .obj ファイル形式で書き出して・・・

Vue に取り込み、CINEMA 4D で設定したテクスチャに Vue の質感を重ねます。

これらを Vue の 3D 空間に配置して、シーンを構成する、という流れです。

3. テクスチャ
テクスチャとしては、(a)オブジェクト用 (b) アルファ平面用 の2 種類のマップを用意しました。

a. オブジェクト用のマップ
古代ローマの住居に使われている材質の品質と色を、忠実に再現しました。 用意したのは、木製オブジェクト用のオーク材、赤い織物、ツヤ感のある金属、白の大理石です。 部屋オブジェクトの壁と天井にマッピングしたローマフレスコ画と、床にマッピングしたモザイクは、このプロジェクトのために書き起こしたオリジナルです。経年劣化を演出するために、壁にはバンプマップを重ねました。

外壁のマップ:2048 x 1426
内壁のマップ:2048 x 1478
寝室の床のモザイク:1900 x 1560
アトリウムの床のモザイク:4096 x 2045



オリジナルで用意した主なテクスチャは次のとおりです。

オブジェクトへのマッピングは、すべて CINEMA4D で設定しておきます。 これらのテクスチャは、.obj 形式でオブジェクトを読み込むとき、一緒に読み込まれます(セクション2の「モデリング」を参照)。

b. アルファ平面用のマップ
さらに、Vue で作成するアルファ平面用のマップを2種類作成しました。ひとつは、オリジナルで用意したブロンズ像を切り抜くためのもの(3700 x 2775、アルファマスク付き)、もうひとつは、透き通る煙を描いたマップです。こちらは、レンダリング時に青いボリュメトリック光源に重ねて使います。

銅像用のアルファ付きマップです。

4. 照明
シーンに用いた照明は、(a)Vue の大気、(b)プライマリ照明 5 基、それに(c)セカンダリ照明 2 基 の 3 種類です。

a. Vue の大気
大気モデルには [環境マッピング] を選択します。
-光源タブ
照明モデルに [グローバルイルミネーション] を選択し、[天空光強度] を 0.70 に設定。
-効果タブ
輝度のあまり高くない HDR 画像と分離反射マップが別々になった、特別なセットを読み込みます。分離反射マップは、ピカピカのブロンズ像や真鍮の質感を部分的にテストするためのもので、最終レンダリングには使用しませんでした。詳しくはセクション6の『最初のレンダリング』のテストレンダリングのところで説明します。 
-太陽光
[柔らかさ] を5.00に設定し、照明エディタの [影] タブで [影の濃さ] を200%、[影響] タブで [光源によるオブジェクトへの影響] を [全オブジェクト] に設定し、[鏡面反射と拡散コンポーネント] の [鏡面反射照明] をオフにします。

b. プライマリ照明 5 基
プライマリ照明は、シーン全体に特別な雰囲気をつけるための照明です。ひとつひとつの位置と色に、重要な意味があります。 つまり、この作品でもっとも表現したい、古代ローマ住居内部の独特な光の採り方を、この照明で再現するわけです。 1. アトリウムの天窓からの光:赤いカーテンが作り出す赤い拡散光をボリュメトリック光源で再現する。2.窓からの小さな光:青い窓ガラスを通って入ってくる青い光をボリュメトリック光源で再現する。 

下の図は、スポット光源の [光源視点] オプションを有効にして、青い光と赤い光の広がり方を確認しているところです。

A. 青い光のエリア
二次減衰スポット光源 x 1(室内に配置)
(カラー:216-241-253、強度:310、柔らかさ:5.00、影の濃さ:65%)
二次減衰スポット光源 x 1(窓の外に配置、メイン光源)
(ボリュメトリックを有効、カラー:211-226-240、強度:200、柔らかさ:0.00、影の濃さ:110%)
二次減衰スポット光源 x 1(戸口近くに配置)
(ボリュメトリックを有効、カラー:211-226-240、強度:100、柔らかさ:0.00、影の濃さ:110%)

B. 赤い光のエリア
二次減衰スポット光源 x 1(メイン光源、アトリウムの赤い光)
(ボリュメトリックを有効、カラー:179-14-2、強度:250、柔らかさ:0.00、影の濃さ:110%)
二次減衰スポット光源 x 1(メイン光源、アトリウムの赤い光)
(ボリュメトリックを有効、カラー:179-14-2、強度:200、柔らかさ:0.00、影の濃さ:110%)

c. セカンダリ照明 2 基
これらは、アルファ平面(銅像と煙)専用の照明です。

5. カメラと構図
この作品を作るにあたって考えたキーワードは、「ミステリアス」「別世界」「古代」「視覚に訴える」というものでした。
古典的で表情豊かで、「いにしえ」の空気をまとったシーンを作りたかったのです。
そこで、カメラの焦点距離を 55 mm にしてコントラストと彩度を強め、「クロサワ的」(原文ママ)な絵づくりを狙ってみました。

次に、構図に関しては、エイゼンシュテイン、クロサワ、グリフィスを意識し、20世紀初頭のモノクロサイレント映画にみられるクラシカルな表現手法を使って、古代の雰囲気がクドくなり過ぎないようにしました。 基本にしたのは、クロサワも使ったと言われている、エイゼンシュテインの古典的な「オデッサの階段」スタイルです。 戸口から部屋の内装を(別世界を覗くように)見ることで奥行き感を出すというアイデアは、グリフィスの初期の監督作品からヒントを得ました。

6. 最初のレンダリング

Vue でアルファ平面以外の要素の配置が終わったところで、はじめてレンダリングをしてみました。

部屋の中のオブジェクトの配置を確かめたり、青いボリュメトリック光源の品質を調整したりするために、視点を変えて何回かテストレンダリングを行いました。

フレスコ画以外をレンダリングしたのが、下の図です。

…そうして目的の構図ではじめてレンダリングしたのが、下の図です。
設定は 2000 x 1500、96 dpi です。コントラストと彩度の値は未調整で、アルファ平面も配置せず、レンズグレアを強くしています。

次に、銅像のアルファ平面をビルボードとして追加し、セカンダリの(銅像用の)スポット光源が、このアルファ平面だけに当たるように設定しました。

さらに、青いボリュメトリック光源の効果を強調する、煙のアルファ平面を追加しました。

ここまで終わったら、パラメータとポストプロセッシングの設定を変えながら、2000 x 1500 のテストレンダリングを繰り返します。金属オブジェクトの質感がどのようにレンダリングされるかも、この時点で確かめます。

こうしてテストレンダリングの結果を見ながら、最終的な1枚をどれにするかを決め、カメラとライト、レンダリング設定の値を手元に控えました。

7. 最終レンダリング

シーンの準備がすべて整ったところで、いよいよ最終レンダリングです。

レンダリング設定は次のようにしました。 画像サイズと解像度:標準PC(4:3)、3700 x 2775、300 dpi / レンダリング画質オプション:最終レンダリング(これで十分でした)。

この設定で [レンダリング開始] ボタンを押し、最終イメージを完成させました。レンズグレア効果をオンにした状態とオフにした状態で、それぞれ作成しました。
さらに、マルチパス設定を有効にした状態のレンダリングも行いました。マルチレイヤー PSD 形式で直接保存して、レンダリング画像を要素ごとにチェックするためです。

下の図は、3700 x 2775、300 dpi の最終レンダリングの一部です。 細部はこのようになっています。

その後、最終レンダリング画像を Photoshop に読み込み、品質チェックをしたのちに、公開に向けて、低解像度のTIFF 形式で印刷しました。

私たちのポートフォリオに掲載している画像は、オリジナルの TIFF ファイルを 800 x 600、72 dpi の JPEG 形式に変換したものです。 ここでご紹介した私たちのテクニックが少しでもみなさんの作品づくりのお役に立てば、こんなに光栄なことはありません。

どうもありがとう!

Melqart/Porticodoro