Lady in a Window

     

この「メイキング・オブ」は、毎週お一人の Vue コミュニティメンバーにスポットライトを当てるページです。 世界中でたくさんの人々が、Vue の製品ラインを使って素晴らしい作品を紡ぎ出しています。そんな皆さんに作品の作り方を解説してもらい、ノウハウを共有できれば、というのが、このページの狙いです。

今回のゲストは Don Webster 氏。2010 年に開催された 3D キャラクターコンテストに向けて、氏がどのようにアイデアを形にしていったのか、順を追って解説していただきます。 デジタルの無機質なキャラクターが、想像力とスキルによって豊かな感情と人を引きつける魅力をまとってゆく過程をご覧ください。

 

メイキング・オブ"Lady in a Window"(窓辺のレディ) by Don Webster

このシーンは、先日行われた 3D キャラクターコンテストへの応募作品として作ったものです。ヌードは禁止、Vueに付属する機能以外の後加工は禁止、という決まりがありました。 私の作品、Brugge(ベルギー)シリーズ にも違和感なく使えて、新作の「窓」シリーズにもつながるような登場人物で、と考えていたとき、窓ガラスに顔を近づけて外を眺める女性、灯りはロウソクのみという、このシンプルな設定を思いつきました。

フィギュアは Poser 2010 で Victoria 4.2 を使って組み立て、テクスチャは RuntimeDNA の Vanilla を使用しました。 このテクスチャは大変素晴らしいもので、次の作品でも使いたいなあ、と楽しみにしています。 ポーズとジェスチャーはシンプルにしました。わずかにかしげた首と視線だけで、控えめな誘惑を表したかったからです。 セットアップが終わったところで、ファイルを Poser 形式で保存し、Vue 8.5 に読み込みました。

フィギュアを読み込むと、Vue の作業空間の真ん中に現れます。 図で見るとおわかりのように、髪の毛は別アイテムになっています。 [フィギュアに着用] で髪とフィギュアを連動させていると、読み込むときにどういうわけか、必ず髪の位置がずれてしまうので、単体で読み込むことにしたのです。 締切時間が迫っていて慌てていたからか、とにかくうまくいきませんでした。 

SkinVue 8 を起動して、パラメータを少し調整し、テストレンダーをして質感をチェックしました。 テストレンダーは、とくに目の部分を確認するために重要でした。 Poser の女性フィギュアは若くてセクシーですね。私はもう少し年上の女性が好みですけど…それはいいとして、私がやりたかったのは、白目にほんの少し色づけして、毛細血管も加えて、充血した感じを出すことでした。

満足できる仕上がりになったところで、フィギュアの前に置く窓を読み込みます。 窓は 1 枚だけあればよいので、ベルギーシリーズで作ったモデルを開き、木のフレーム部分など余分なものを削除しました。このメッシュを Vue に読み込む前に、ZBrush 4 で一仕事しています。

下の図は、modo で窓ガラスと金属フレームのメッシュを開いているところです。 金属のフレームと窓ガラスという 2 種類のメッシュです。ガラスのところどころが抜けていることにお気づきかと思います。実際には、ガラスは 2 重になっていて、そこからいくつかを削除しています。ちょっとしたことですが、以前Tall Studio というモデルを作ったときにうまくいった方法です。 窓ガラスを 1 ~ 2 度傾けると、光がいろいろな方向に反射して面白いですよ。

この作品の場合はカメラが窓にごく近いという構図なので、メインのフレームの角にほんの少し丸みをつけて、風化を表したいと思いました。そこで、エッジのスカルプティングをするために、メッシュを ZBrush に読み込んだというわけです。 スカルプティングによってポリゴン数は大量に増えますが、ZBrush にはポリゴンリダクション機能もついていますので、作業しやすいファイルサイズにまで落とすことができます。

スカルプティングのあと、再び modo に読み込みました。 下の図をよく見ると、ガラスのメッシュを示すワイヤーフレームが、窓枠のメッシュから飛び出しています。 本当ならば、こういう出っ張りは窓枠にきちんとおさめないといけないのですが…今回は間に合いませんでした。次からは、ベベルは外向きにしないといけませんね。これだと、光の反射がおかしくなってしまいます。

窓 1 枚の準備ができたら、これを複製して画角を埋めるように並べます。

窓辺に立つ女性の顔と体に重点を置き、他の作品に使っているようなディテールの細かい内装は置かないことにして、手前の面を削除した立方体をひとつだけ、下の図のように配置しました。

立方体の手前の四隅を窓枠の大きさに合わせ、奥に向かってドラッグすると、ほどよい暗室ができます。濃い色のマットを貼りました。

ここでプレビューレンダーをしてみたところ、裸体があからさまに見えてしまうことがわかりました。 私は彼女に服を着せたくありませんでした。このシーンに合う衣装を持っていませんでしたし、なにより、「裸を感じさせない裸」にしたいという意図があったのです。 そこで、Cornucopia3D で以前購入した、個人的な友人 Wabe 氏の Ivy を窓枠に這わせるという当初の構想に加え、下の図のような日時計を目隠しに使うことにしました。 これで、窓枠の冷たい印象と裸体の生々しさが和らぐはずです。

下の図のとおり、日時計は角度をつけて配置しています。 カメラに近すぎて、真っ直ぐ立てるとおかしく見えるのです。 真っ直ぐ立っているように「見え」さえすればよいので、適当に傾けました。アーティストは頭が柔らかくなくっちゃね。

点光源を 2 基作成して、ひとつは女性と窓の梁の間、もうひとつは頭の後ろに配置しています。 暗い色の髪のシルエットを浮き立たせるために、ベルギーモデルのひとつに使った 絵画 を、女性の後ろに斜めに配置しました。

この照明にはロウソクのような灯りを想定していたのですが、それだけでは暗すぎるようでした。 とはいえ、点光源を強くすると女性に光が当たりすぎて、せっかくのきめ細かい肌のテクスチャが飛んでしまいます。それでは、月明かり程度のほんのりした明るさというイメージに合いません。 そこで、点光源を弱めて、環境マッピングで明るさを調整することにしました。締切時間が迫っていたので、許される時間をギリギリまで使って、この照明スキームに取り組みました。

グローバルラジオシティは大袈裟だったかもしれませんが、Poser のヘアモデルをうまく引き立ててくれたと思います。

レンダリングと照明調整には時間をかけました。細かい修正をしたあとは、数時間から丸 1 日ほったらかしにして頭をリセットしてから、再びマシンの前に戻りました。 構成、視点、被写界深度、モデルやその他アセットのクオリティなどなど、シーンをどれだけ作り込んだとしても、照明が適切でなければ、すべてが台無しです。

Vue をはじめ、CG 製作アプリケーションを使い始めて間もないという方や若い方は、何でも短時間で仕上げたいと思っているかもしれません。そのお気持ちはわかります。スピード勝負の今日、こんなに便利で、これからも進歩し続けるツールに囲まれているなんて、みなさんはラッキーです。 私たちのような古参のユーザーは…こんなことを思い出します。あるとき従業員が満面の笑顔で近づいてきました。何事かと尋ねたら、長方形をひとつ描くためのコードを思いついて、それが書けたって喜んでいるんですよ。モニターが 5 インチだったころの話です。

このチュートリアルが皆さんの創作活動と洞察のヒントになれば、幸いです。 楽しんでくださいね!

Don Webster