Butterbur and Dragonfly

     

この「メイキング・オブ」は、毎週お一人の Vue コミュニティメンバーにスポットライトを当てるページです。 世界中でたくさんの人々が、Vue の製品ラインを使って素晴らしい作品を紡ぎ出しています。そんな皆さんに作品の作り方を解説してもらい、ノウハウを共有できれば、というのが、このページの狙いです。

山があって草原があって森があって、脈々と広がる壮大な景観は、Vue を使って誰もが表現したいと思うシーンですが、今回のゲスト Lars Braad Andersen 氏は、私たちを『小さな世界』へと連れて行ってくれます。Vue のカメラをマクロレンズにすると、自然界のこんな姿が見えてきますよ。

 

メイキング・オブ "Butterbur and Dragonfly"(セイヨウフキとトンボ) by Lars Braad Andersen

この『セイヨウフキとトンボ』は、2010年12月の『Cream of the Crop(※Cornucopia 3D が選出する優れた作品)』に選ばれた作品です。
このチュートリアルでは、それをベースにちょっと面白い別方向からアプローチして、自然界のひとコマを接写で切り取る方法について説明します。 簡単ですので、同じようなシーンはすぐに作れると思いますよ。

この作品の構成は、トンボの羽を中心として生まれました。 現実世界で見かけるこの玉虫色の質感に、私はかねてから強い興味を持っていましたが、制作への一歩はなかなか踏み出せずにいました。 Vue で再現している例も、作り方のヒントも、目にしたことがなかったからです。 ええ、おっしゃるとおり。前例は自分でつくるもの、ですよね :) 実は、このプロジェクトはちょっと違うきっかけで始まりました。手元にあったクモの巣のオブジェクトをあれこれいじっていたとき、ふと、玉虫色への秘めたる情熱を思い出したのです。 Vue では光沢に色をつけることができますが、色の代わりにカラーマップを読み込んでみたこと、ありますか? [光沢色] の左に小さな稲妻のアイコンがありますね。この稲妻アイコンは、その属性値が関数で制御できる、という意味です。 [光沢色] も関数で制御できるということに、そのとき初めて気づいたのです。

そうして、クモの巣をどうにかこうにか玉虫色にすることができたとき、「これを昆虫の羽にしたらカッコよさそう!」と思ったわけです。 セイヨウフキの、あの繊細な凹凸のある葉っぱにとまって羽を休めるトンボ、というアイデアは、そのときにパッと浮かびました。 私はすぐにシーン構築に取り掛かりました。 順を追って説明しましょう。羽の光沢の出し方については、後ほどご説明します。

まず必要なのは、セイヨウフキの葉の精巧なモデルです。 トンボのほうは簡単に見つかりました。 候補はいくつかあって、Renderosity の Free Stuff(無償) で見つけたひとつも、とても素晴らしいものでした(このモデルを使う場合は羽に少し手を加える必要があるのですが、このチュートリアルではそこには触れません)。
しかし最終的には、Content Paradise にあった Poser 用のモデルを使うことにしました。

1. 地形エディタを使った葉のモデリング

これは昔 Bryce を使い始めたころに覚えた、とても古いテクニックです。 あんまり昔の話なので、ほとんど忘れかけていました。

次の素材を準備してください:
- 基本となる、葉のビットマップテクスチャ。できれば高解像度で。
- 上のテクスチャのグレースケール版。必須ではありませんが、コントラストなどはグレースケール画像で見たほうが見当がつけやすいです。
- 白黒2値のマスク(アルファチャンネル)。葉の透明度関数に使用します。

準備ができたら、標準地形を作成して、地形エディタを開きます(地形を選択して、ダブルクリックまたは Ctrl+E)。

基本形として、浅い茶碗型の、曲線の緩やかなプロファイルが必要です。 そこで、デフォルトの地形から、解像度を 32 x 32 に下げ、[浸食効果] の [拡散] を何度もかけて滑らかにします。 丸みのある丘陵を作りたいときは、これが早道です。 次に、地形を反転して茶碗を上向きにします。 ここで解像度を 2048 x 2048 まで上げ、他の浸食効果も混ぜながら、部分的な凸凹をなくして滑らかなお椀型に仕上げます。

キレイにできたら、葉っぱの形を作っていきましょう。 グレースケールのビットマップ画像を読み込みます。これが、地形でいうところのハイトフィールドにあたります。 葉っぱの表面を走る葉脈や細かい凹凸など、接写したときに重要な葉のディテールは、この画像を使って表現します (スーパーの野菜コーナーに行く機会があったら、白菜やちりめんキャベツの葉をよーく観察してみてください。ウットリするようなフラクタル地形ですから!)。

画像を読み込んで、今回はバンプをごくごく控えめにしたかったので、[比率] で地形(左端)から 5% 分だけ画像が反映されるようにしました。 値を高くすると、凹凸が激しくなり、エイリアンの住む星に生えていそうな、おどろおどろしい葉になります。そうなると今回の狙いとはずれてしまうので... :) また、合成モードの選択も重要です。 ほとんどの場合、[混合] か [加算] でうまくいきます。 私も迷わず [加算] を選びました。これがベストだったと思います。上のスクリーンショットがそれです。 :) 最後に、地形を [中空] に変換します。 葉っぱですから、厚みをなくすためです。さらに [浸食効果] の [拡散] をもう何回かかけて、不自然な凹凸を完全に取り除きました。

先に説明したように、カラーのテクスチャマップの他には、白黒2値の透明マップが必要ですが、 私はこれを、カラーマップとは別ファイルで用意することをお勧めします。 部分的に透明な質感が欲しい場合には、一般的に、葉っぱのカラーテクスチャにアルファチャンネルを追加し、透明マスクを作成して、そのファイルを TIFF(または Targa/tga、png でも構いません)で保存すると思います。 しかし TIFF には、JPEG に比べてファイル容量が数倍も大きくなるという難点があります。つまり、Vue に読み込んだときにも、それ相応のリソースを取られてしまうのです。 そこで私からのアドバイス:
私の場合は、カラーマップと、必要であればバンプ用のグレースケール画像を、それぞれ JPEG で作成します。 そして、それとは別に2色(白黒)の GIF ファイルを作ります。これが透明度関数用です。 この方法で作った画像を、通常の TIFF 画像と比較してみてください。あまりの『軽さ』にビックリしますよ。

ついでに、透明マップをもう 1 枚作成し、こちらには白い色で『穴』を描き込んでいきます。 実際の植物の葉には、このような虫食い穴や雨風によるキズがあるものです(アルファチャンネル方式でやっている場合は、ペイントもアルファチャンネルに対して行ってください)。 ここでおさらいです。Vue の透明度関数では、黒が不透明、白が透明になります。

ポイント:マスクはカラーマップに対して 2~5 ピクセルの余白が出るよう、少し小さめに作ることをおススメします。こうすると、葉っぱの境界線に地形のノイズが現れません。 さて、いよいよ、地形の葉っぱオブジェクトにテクスチャを割り当てましょう。

ここまでで、3 種類のテクスチャマップを用意しました。 基本質感エディタで読み込めば、3 種類すべてを一度に見とおせるので便利です。 お気づきかもしれませんが、カラーマップとバンプマップには茎があり、アルファマップにはありません。茎を残しておいたのは、他の(SolidGrowth による *.veg 形式の)植物に流用する可能性を考えたからです。今回はアルファマップによって茎は見えなくなりますが、茎は必要ないので、想定どおりです。 この時点で詳細質感エディタに切り替えて、細かい設定をしていきます。

効果タブの [バックライト] を 100 % にして、疑似的な半透明効果をつけています。 葉っぱの質感には総じてこの設定が有効ですが、必ずしも 100 % でなければならない、ということはありません。 今回は使いませんでしたが、[半透明] タブのサブサーフェススキャタリング(SSS)設定を使ってもいいと思います。というか、そうすればよかったと思っています :) 関数スケールを 1 にして、マッピングモードを [パラメトリック] に設定することにも注意してください。 テクスチャを地形に正しくマッピングするためには、この設定が重要です。 マップの向きは、地形エディタのマッピング設定と合わせてください。これは基本質感エディタでマップを読み込む段階で(プレビューの下の回転調整アイコンを使って)簡単に調整できます。 バンプの値は 0.1 に下げました。 以上の設定で、地形の葉っぱは次のような見た目になります:

地形のプロファイルが粗すぎると感じたら、地形エディタでさらに拡散浸食効果をかけて修正するか、それでもダメなら最初から作りなおしてください。 3D にはトライアンドエラーがつきものですからね :) バンプの設定、光沢の強度とサイズを納得ゆくまで調整したら ... 葉っぱの土台となる、フキの茎の部分を作りましょう。

私は Carrara で作成しましたが、Vue の植生から取り出して使っても構いません。図は一例ですが、ここでは詳しい作り方は省略します。 Vue の植生から取り出す場合は、メッシュの焼き付け、分割、葉の部分の削除、といった作業が必要です(これらの処理は、Vue Infinite/xStream 製品ラインでのみ行えます。 上の図は Vue 9 Infinite PLE という無償バージョンで作成して、*.obj で書き出したものです)。 上の図を見ると、お世辞にもリアルとは言えません。セイヨウフキの茎に見えないし、枝も細長すぎます。 でも、このプロジェクトの場合はこれで OK なのです。

では、地形エディタで作成した葉っぱオブジェクトを複製して枝に配置し仕上げていきましょう。
ここで注意。葉っぱの地形オブジェクトは、位置や大きさがある程度決まったところで、必ず保存するようにしてください。
難しい操作ではありません。ひと手間増えるというだけです。 どうかそのひと手間を惜しまずにこまめに保存してください。基本の移動、回転、拡大縮小ツールを使って、葉っぱオブジェクトをお望みの場所に配置していきましょう。 仕上がりの状態は、あなたの粘り強さと諦めの悪さ、それに、物の位置にどれくらい神経質かにかかっています :)

葉っぱを茂らせる作業が終わったら、茎と葉をグループ化して、*.vob 形式で保存してください。 これで完成です!SolidGrowthを使わずに、ディテールの細かい植生ができました!

2. トンボのテクスチャリング

ギラギラしたメタリックな昆虫。トンボについての私の印象です。 この、いつもピンピンと飛び回っていて片時もじっとしていない生き物にも、ほかの昆虫と同じく、玉虫色の光沢を放つ美しい羽があります。 Vue でぜひ再現したいと思ったのが、この玉虫色の質感です。
私が選んだ Poser モデルは、Vue に読み込んでみると全体的に残念な見栄えでした(下図)。

そこで、Vue でテクスチャをすべて設定しなおしました。それが下の図です:

質感修正の『ハイライト』は、何と言っても ... ハイライト(光沢)です :) それではその手順をご紹介しましょう。 [光沢色] に色をつけるのは極めて簡単なのですが、 私が注目したのは、その横にある稲妻アイコンです。 はい。関数エディタです!

開いただけでも難しそうなのですから、設定をひととおり見渡してみて、挫けそうになっていませんか?(私です!) だけどあきらめないで。少しでも触れるようになったら、尊敬の視線を集めること間違いなしです。

[光沢色] ノードに、[結合] ノードを追加します。 これをしないと、次に作成する [カラー変化マップ] ノードが有効にならないようです。 [カラー変化マップ] を追加して、プリセットから虹色のカラーマップを割り当てます。 私はもともと関数エディタオタクでも何でもないのですが、慣れるにつれて、だんだんと高度な効果も設定できるようになりました。 トライするだけの価値はあります。 理屈がわかると、これくらいのノードは簡単に組めるようになります。 なんて大きいことを言ってはみたものの、私にとって、これはまだまだ高度な部類です。実はいまいち理屈がわかっていないので...

他のパラメータもいろいろ触ってみてください。もっと良い結果が得られるかもしれませんよ :) 値を少し変えるだけで結果が劇的に変わりますので、そこは好みや、求める効果の強さで加減してください。

ここで私の考え方について注釈を入れておきます: この部分の設定に限らず、私は自分の作品づくり全般において、 『それっぽく見えれば、それが正解!』 をモットーにしています。Vue ユーザーのなかでも、厳格な人は、再現したい大気や質感は現実世界の数値に忠実でなければならないと考えて、設定に頭を悩ませるかもしれません。 私はアバウトなので、これらはどのみち単なる画面上のピクセルであって、自然現象のシミュレーションではない、と考えるのです。 写実的な作品をつくりたいと思うなら、まずは自然を学べ、です。そして、自分の目に映ったものを再現するときは、 それっぽく見えれば、それが正解!という言葉を思い出してください。 私の感覚では、たとえば、[空気遠近法] の『正しい』値が 1 だからといって、そこを 1 にしたまま、大気が思いどおりにならないと悪戦苦闘するのは、ちょっと真面目すぎやしないかと思うのです。25 でイメージどおりの大気になるのなら、25 でもいいじゃありませんか。 その一方で、すべてのパラメータをいろいろと動かして、結果が実際にどうなるかを実験することにも、間違いなく大きな意味があります。

唯一無駄なもの、それは、怠け心や短気です。 『これくらいでいいか』と妥協していたら、素晴らしい結果を手に入れることはできません。

[透明度] タブでも調整を行いました。 [屈折率] はほとんど加えていません。羽を透かして、葉っぱが極端に歪んで見えてはおかしいし、コースティクス効果も必要ないと思ったからです。 図の [全反射制御] パラメータにも注目してください。 これは、[反射] タブの設定を使わずに、羽に反射属性を持たせるためです。デフォルトの 40% より強くしています。 羽以外のトンボの質感についても、少し説明しておきましょう。 胴体には同じくわずかに反射をつけ、[反射光を着色] 設定を使って、メタリックな質感にしました。 また、表面に少しだけ凸凹をつけたかったので、カラーマップをバンプに使っています。

目の質感は、半分お遊びのノリでいろいろと試してみました。 ほとんどの昆虫の目は、個眼の集合、『複眼』ですね。トンボも然り。これを再現するために、[変動光沢] と [異方性光沢] を下の図のように設定しました。 上のレンダリング画像では効果がわかりにくいので、トンボだけを大きくレンダリングしました。下の図です。

完成したところで、トンボオブジェクトを *.vob 形式で保存しました。 ここまでの作業で、私が要素ごとに新規シーンを作成して保存している点に注目してください。 私の作品のつくりかたは、ほとんどいつもこうです。最後に、実際のシーンプロジェクトに要素を読み込んで、配置します。 この方法だと経過を辿りやすいですし、もし万が一、Vue がクラッシュするような操作をしてしまっても ... もちろん Vue に限ってクラッシュなんてありえませんが ... (´;ω;`)、被害は最小限で済みます。 それでは、プロジェクトの仕上げにかかりましょう。

3. シーンの構築

ここはいちばん簡単なパートです。 セイヨウフキを読み込んで、トンボを読み込みます。 次に、拡大縮小ツールで大きさのバランスを整えて、トンボをフキの葉の上に置きます。 ここの部分は、ちょっと注意が必要です。トンボが葉っぱにとまっているようにしたいので、回転ツールなどで配置を微調整してください。 また、脚が葉から離れてホバリング状態になっていたり、反対に葉にめり込んでいたりしないかも、チェックしてくださいね。

次に、セイヨウフキを複製して3~4株に増やし、オリジナルの周囲に配置します。大きさや角度も変えましょう。 草のオブジェクトを何種類か読み込んで、ひとつはカメラのすぐ近く、もうひとつは中央のフキの後ろなど、『戦略的に』配置します。 私の場合は自分で作った植生を使うことが多いのですが、今回は Jan Walter Schliep 氏が Cornucopia 3D で販売している 9 種類の草オブジェクトのバンドルパッケージから、ひとつを選んで使用しました。

被写界深度効果(DOF)を使おうと決めていたので、背景を細かく作り込む必要はありませんでした。 環境マッピングで HDRI を使えば、立派な背景になります。 手っ取り早いのは、[大気の読み込み] で Effects > Others > Image Based Lighting を開いたあと、大気エディタの [環境マップ] 設定で、付属の HDRI コレクションから自然の風景ファイルを読み込む、という方法です。 インターネットで検索すれば、さまざまな HDRI マップが無償(または有償)で提供されています。

ただし、IBL/HDRI のみで照明効果を設定すると、オブジェクトの光沢/ハイライトが一切考慮されなくなります。トンボの羽の光沢が肝ですから、これでは困るのです。 そこで、太陽光も併用することにしました。羽に玉虫色の反射が現れるように、太陽光の方向も調整します。 影を少し柔らかめにして、究極のリアリズムを追求するために(シャドウマップではなく)レイトレースシャドウを使います。

作業の間、照明効果を確認するために何度もテストレンダーを行いました。私の作るシーンは照明が命ですので、テストレンダーはとても大事です。 今回は被写界深度を使いますから、カメラの設定も調整する必要がありました。 私はしばしば、Photoshop の [ぼかし(レンズ)] フィルターを代用するのですが、この作品には正確性を求めたので、Vue の被写界深度機能を使うことにしました。 設定は面倒ですが、繊細な透明度などはずっと正確に仕上がります。

図のように、カメラターゲット設定を使って、トンボの胴体に焦点を合わせていることに注目してください。
カメラの設定が終わったら、忘れずにファイルを保存して、いよいよレンダリングの設定です。 [ユーザー設定] で設定をカスタマイズして、[外部レンダラ] を選択したら、 レンダリングを開始します。

レンダリングが終わったら、画像を Photoshop で開きます。 色補正やレベル補正、画角のトリミング、署名などの加工が必要な場合は、ここで作業します。 私は、レンダリング画像は必ず Photoshop で開くようにしています。 この手順は必要ないこともありますが、大抵は必要です。例外と言えば... コンテストの応募要綱に『後加工禁止』と書かれている場合ぐらいでしょうか。 

以上。完成です! みなさんの作品づくりのお役に立てば幸いです。

ハッピーレンダリング! - Lars "BigBraader"