MS11 Alligator Interior Title

     

この「メイキング・オブ」は、毎週お一人の Vue コミュニティメンバーにスポットライトを当てるページです。 世界中でたくさんの人々が、Vue の製品ラインを使って素晴らしい作品を紡ぎ出しています。そんな皆さんに作品の作り方を解説してもらい、ノウハウを共有できれば、というのが、このページの狙いです。

Vue の世界ではお馴染みの Don Webster 氏。細部まで丁寧につくりこまれたモデルに、独特の世界観、そして写実的な作品は、世界中の Vue ユーザーから支持されています。 今回は、氏が制作を続けている潜水艦、USS アリゲーターについてです。膨大な事前調査と、モデリングからこの見事なレンダリングに至るまでのワークフローについて伺います。それでは、艦内に案内してもらいましょう。

 

メイキング・オブ "Making of MS11 Alligator Interior Title" by Don Webster

私が modo を使って USS アリゲーターの制作を始めたのは、もう何年も前のことです。 そのときは、完璧とは言えないまでも、ハッテラス岬で海流にもまれて沈みゆくこの潜水艦の外観モデリングを、14 x 40" のキャンバスサイズで完成させることができました。このときのキャンバスは、Atlantic Museum at Hatteras の Shipwrecks(難破船)コーナーに展示されています。

それからしばらく経って、船舶・戦艦を愛する景観クリエーターのためにこれを Vue ベースで作ってみようと思ったときに、それならば艦内もあったほうがアセットとして喜ばれそうだ、という発想になったのです。 なかでもぜひモデリングでやってみたかったのが、リベット(鋲)です。大量のリベットをバンプマップ以上のクオリティで表現したいと思いました。 これは重要なポイントで、というのもレンダリングは艦内を斜めから見るアングルでと考えていたので、バンプマップでは十分な立体感を出すことが難しそうだったからです。

艦内設備のモデリングを始めたころは、寸法を除いて、具体的な仕様はほとんど手元にありませんでした。 そのため、データとしてわかっている事実と、当時の技術力で可能だったであろうという想像とを織り交ぜて、下の図のような艦内シーンを完成させました。これは現在、Cornucopia3D ストアで販売しています。

昨年、Roman Chariot Race(ローマの二輪馬車レース)の制作を終えた私は、アリゲーターの艦内を乗組員付きで作ってみたいと思い、NOAA(アメリカ海洋大気圏局)の最新の調査結果をお手本に、モデリングをやり直すことにしました。

その調査結果は、驚くような内容でした。 台座についての私の想像は、完全に外れていました。実際には、滑車や配線、脱出チェンバー、手回しのエアポンプなど、さまざまな装置が配備されていたのです。艦首から艦尾を貫くプロペラクランクの中央チェンバーにはギアトランスファーがついており、その動線の悪さに、当時の乗組員の苦労が窺えました。

modo 501 でモデリングしたあと、メッシュを部品ごとに色分けして、Vue 9 Infinite で開いたときにわかりやすいようにしました。内部構造をもっと作り込む必要がありましたし、Poser フィギュアも 6 ~ 8 体配置するつもりでしたから、ポリゴン数はできるだけ抑えなければ、と思いました。 そこで、リベットのデザインを変えて、1 本あたり 6 ポリゴンにしました。それでもまだまだ重かったので、中からは見えない位置にあるものや照明の妨げになるものは、すべて削除しました。

モデリングして .obj 形式で書き出しVue に読み込んだあとも、私はよく形状を編集したり新しい要素を加えたりすることがあります。今回も、側面にまだまだ装置を足すつもりではいましたがとりあえずモデルは読み込んだままの状態で、カメラのアングルを決めることにしました。 下の図は、側面表示で見たところです。最終レンダーでは奥に見えている乗組員一人が、手前に見えます。

水面は、カメラに映るエリアだけをカバーするシンプルな平面オブジェクトで、質感の設定は下の図のとおりです。ご覧のとおり、標準的な水面タイプを組み合わせた合成質感です。 質感は、理に適っているかではなく、もっともらしく見えるかどうか、ということを基準に選定しています。 はじめは濁った水が妥当だろうと思って設定をしてみましたが、思ったような絵になりませんでした。

私は、縦長や正方形の画角は好きではありません。基本は横長、それも 4 分の 3 ではなく、ワイドスクリーンが好きです。しかし今回は細長い艦体という形状の性質上、少し高さをつけざるを得ませんでした。 図のようなアングルの場合、リベットをバンプマップで表現していたら、うまくいかなかったであろうことは明らかです。

下の図は、上面表示で艦体を見下ろしたところです。[焦点距離] は 16mm です。

モデリングが終わって、カメラも設定できました。ここまでの労力が実るかどうかは、照明にかかっています。 艦体側面の舷窓から入る光の筋を表現するためには、大気の設定だけでなく、二次減衰スポット光源の力を借りなければなりませんでした。配置や設定については、下のほうの図を参照してください。 煙やほこりの混じった高品位な光が欲しかったので、ボリュメトリック光源の強度を高くしました。これらの照明設定は、カメラの位置と、イメージしているバックライト効果の強さによって異なります。

では、ここで大気の説明です。 このシーンの場合太陽はあまり関係ありませんが、それ以外の大気の設定は非常に重要です。 大気は、光と雲と霧ともや、という要素に分けて考えることができますが、私は同時に、空気中に漂う粒子という捉え方もしています。そしてこの作品では、浮遊物質を多く含むが遠くまで見とおせるという大気がふさわしいだろうと思いました。

ひとつひとつの舷窓はとても小さいので、そこから光を狙いどおりに取り込むためには、スポット光源を少し動かしては効果を見て、また少し動かしては効果を見て、という繰り返しの作業が必要でした。 艦内に置いた二次減衰光源は、舷窓がない場所を照らすためのものです。日光として使用している二次減衰光源はすべて、少し白っぽく設定しています。

それに対し、上から吊り下げているランタンは黄色みの強い灯りにして、強度も下げています。 『リライト機能』をつけてくれてありがとう、e-on!

DOF(被写界深度)は [レンダリング設定] パネルで設定できますが、私はほかの効果を試したいので、普通はここでは設定しません。 代わりに、最終レンダリング画像を保存するときにZ デプスファイルも別に保存するようにしています。これはレンダリング画像をグレースケールにして暗くしたような画像で、ポスタライズ処理をかけたようにも見えます。 下の図は、この作品の Z デプス画像です。

このファイルで何をするかというと、画像編集ツールを使って、まずレベル補正で色のいちばん明るいところからいちばん暗いところのレンジを最大限にします。 今回は Photoshop CS3 を使っています。 レイヤーパネルで [チャンネル] をクリックすると、画像が 4 つのチャンネルに分割された状態で表示されます。 新規チャンネルを作成して、そこにアルファチャンネルとして Z デプス画像を貼り付けます。 こうすると、ぼかし(レンズ)フィルターでこのチャンネルを呼び出せるようになるので、インタラクティブに確認しながら DOF を好きなだけ調整できるのです。

この方法で調整したデプスチャンネルが上の図です。違いがおわかりかと思います。

最終的な合成結果が上の図です。今回、この部分のノウハウを披露してほしいという依頼をいただきとても嬉しかったのですが・・・実はこれで完成とはなりませんでした。 このあと、私はモデルの細かいところを修正し、チェンバーとエアポンプにかなりのディテールを追加することにしたのです。 完成シーンは、Cornucopia3D で発売中のアセットに加える予定です。

Thanks! Don Webster

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